ウ「ウサギの私たちは心がデリケートにできているから、でっかい犬や乱暴な猫が待合にいる
だけで気絶しそうよ。
そんなとき、こちらでお待ちくださいって、第2診察室に通してもらうとホッとするわよ」
猫「いろんな動物病院があるけど、私たちがいいと思う病院はボスたち家族にも良く言われて
いるよね。心遣いが形になっているっていうのかな」
犬「僕たちなんか体がでかいっていうだけで、あ、ヤなのが来たって顔されるからね。
正面から向き合う待合じゃなくて、L字型とか奥に長いと居場所もあるんだけど」
猫「バスケット越しとはいっても、犬が好奇の目でハァハァ言いながら迫ってくると身の毛も
立ってしまうわ」
犬「犬はハァハァ言うもんです。でも、確かに入院室にしても、猫と別だと僕らも落ち着くな」
犬「エアコン完備の犬舎はいまや当たり前だけど、室内側に窓があるのっていいよね。先生が
ときどきのぞいてくれると安心だし、ボスが来てくれたときは、すぐに尻尾をぐりんぐりん
まわして、うれしいのを伝えられるんだ」
猫「なんで犬ってさ、うれしいとすぐ興奮してオシッコやウンチをするのよ。
病院の床はたいてい拭き取りやすい床になってるけど」
ウ「あのツルツルの床って、ウサギにとっては怖いのよ。私たちって脚力がある割に体が硬い
でしょ、意外に。
診察台から飛び降りた拍子に骨折したりするのよ」
犬「それは犬もそう。友だちのバーニーズなんか、はしゃいで走り回っていたら、すべって
脱臼したもんな」
ウ「犬の毛、猫の毛が渦まいてるような病院は居心地がわるいね」
猫「綺麗なのは賛成。ちょっと引っ掻きたくなる気持はあるけど」
ウ「私たちの目から見て、気持になって、つくってくれるといいよね。また
来てもいいなあっていう病院は、そんな病院だよね」
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ウサギ「ペットと一口に括られる私たちですが、種としての違いを超えて置かれている立場の共通性
に思いを致し、人間との共存を図る大きな一歩としたいので皆さんよろしく」
猫「ワンはいっつも人間に媚びてるわよね。もっと主体性を確立しないといけないんじゃない?」
犬「人間への忠誠こそワンの誇りなのです。ハチの生き様はすべての人間の魂を揺さぶり、我々の伝説
となっています」
猫「とか言っちゃって、猫を見るとすぐハァハァ言って迫ってくるんだから。すぐ興奮して、雪が降る
たびにはしゃぎまわって、バッカじゃね」
犬「ネコさんだって、耳が真っ赤になるまでコタツにもぐりこんでて、フーラフラになって出てくる
じゃねえか」
トカゲ「まあまあ仲良くやろうやないか。お互いの個性ちゅうもんを尊重せないかんぜよ」
犬「オレは仲良くしたいけど、ネコさんは受け入れられないようだよ」
トカゲ「オスとメスの間に友情は成り立つか、みたいな話か」
ウサギ「違う! もともと種族が違うし」
カナリヤ「ネコさんだって、カナリヤのワタシがおいしそう、なんて思ってんじゃ・・・」
猫「いいえ、ワタシもネコのはしくれ、プライドにかけてそんな卑しいことは・・・でも、飛んだら
捕まえたいかも」
カナリヤ「だろう。捕まえたら、喰うんだろ」
猫「いえいえ、ワタシもネコのはしくれ、プライドにかけてそんなさもしいことは・・・でも、
サクッと噛んではみたいかも」
カナリヤ「だろ、だろう」
猫「それに血の味は嫌いではないかも」
カナリヤ「なーんて野蛮なのかしら」
犬「ネコさんは肉食系だからな。獣医さんや看護士さんの腕をキズだらけにするのはほとんど猫族
だろ。ボクらは原則的に人を傷つけない平和主義者だから。ネコさんやウサさんを追いかけるのも
ただ遊びたいだけだし」
(中継レポーター)あ、ここでウサギが、怒りのタッピング。
ウサギ「ワンは遊びでもこっちは命がけなのだからね。物事は社会的弱者の立場から考えろってーの」
トカゲ「ワシはとにかく、ぬくーい棲みかとシャキシャキのリーフがあればいいがな・・・爬虫類に
アメニティを!」
猫「待合にワンとネコそれぞれの居場所を!」
カナリヤ「小鳥とウサギに特別待遇を!」
ウサギ「はいはい、お互いペットもいろいろなんだなとわかったところで、それでは共同宣言を採択
します。
飼い主さんは私たちの特性をよく理解して、動物病院は思いやりをもってお付き合いしてほしい
です!」
(中継レポーター)「異議なーし」と声が上がり、終了の合図となるウサギのタッピングが、会場に
響きわたっています。以上、現場からでした。
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入門書『建築講義/動物病院のつくりかた』 プロローグ ![]() 最初に動物病院づくりに関わったのは2000年のこと、 その時つくづく感じたのは、動物病院は「総合病院」なんだなあということでした。 風邪くらいしか診られません、ケガしか治療しませんという動物病院は まずありませんね。いわゆる内科・外科から歯科に至るまで、 診療科目はすべてにわたっていて、診察・処置室だけでなく、 薬局や検査・入院の設備まである「総合病院」なのです。 しかも「患者さん」はたとえばイヌと一口に言っても、大型犬から今流行りの ミニチュア犬まで品種もいろいろです。 それにネコ、ウサギ、フェレット、ハムスター、小鳥、さらに爬虫類にまで 対象を広げている病院も少なくありません。 こうした今日的なニーズと設備・機能を一定の空間につくりこむという作業が、 動物病院の設計なのです。 そこには一般の住宅や事務所、商店の建築では出てこない要素がたくさんあります。 病院にはレントゲンの機器があります。 X線の性質は?電圧は?装置の概要と操作は? デジタルでなければ暗室、現像設備は、フィルムの保管場所は?・・・。 病院ですから手術室があります。 よくテレビドラマで手術室のシーン、ビカッとまばゆく光る電灯、 あれを無影灯といいます。まさに腕のように無影灯の角度や高さを自在に調整する アームですが、あのアームを有効に生かす天井の高さというものがあります。 支える天井には当然補強が必要です。 待合室の設計ひとつとっても、大型犬と小型犬、イヌとネコ、ネコと小動物の住み分け に配慮しなければなりません。人間だったら席をつめて整然と順番を待ってくれますが、 ペットたちの待合は、トラブルの起こる可能性のある場所なのです。 鳴き声、臭い、X線。これらに対する防音、防臭、防護の設計は基本事項です。 このほかあげればキリがありませんが、レーザー機器などの医療機器・ 各種検査機器、酸素・窒素・笑気などガス類の配管・ボンベの配置、 多様な薬品・器具の収納、尿に強い壁材などという事柄は、 まず普通の建築物には出てこないものです。 もし動物病院を設計しようというなら、このへんの知識は初歩の初歩になります。 ところがつい勢いで「動物病院くらいつくれますよ」と言ってしまう建築業の方。 (動物病院の建築は奥が深―いのですぞ) また獣医師の先生も自分が指示をしながらやればいいと考えることが多いようです。 しかしその結果、心身は消耗する、工期は延びる、コストはかさむ、そして結局、 不満の残る病院でガマンしているということになります! 実際、「こういう病院をつくりたいと伝えていくのに、いちいちオペレーションの内容 から説明しなくちゃならないのはたいへん」とこぼされる声を聞くことが、 少なくありません。 動物病院をよく知らない人の設計・施工がもたらす笑い話は、 枚挙にいとまがありません。たとえば「隔離室を設けてください」 という要望が出たとします。動物病院の「隔離室」というのは、 他のペットと同じ入院室に置けない状況のペットを観察・収容する部屋で、 いつでも見に行ける設計でなければならないのですが、本当に、 外からしか出入りできない「隔離された」部屋がプランされていたことがありました。 入院室が完成して、さてケージを収めようとしたら大きいケージがドアから入らず、 いったん壁を壊したという話もありました。 そんなこんなの面白ネタもおりまぜながら、動物病院のつくりかたの概略が見えてくる、 そんな講義をお届けしています。 動物病院専門の企画設計事務所を設計士とともに担った著者が8年にわたり発信し続けたメールマガジン。統計上の理論やキレイな写真例集からは漏れてしまうリアルな情報が知りたい、動物病院のつくりかたについて具体的なイメージが得られるような、話が聞きたい。予備知識、予備概念をつかんでおきたい。そんなあなたに建築の立場からノウハウを綴った全97話の講義を執筆しました。。 |