OMNIBUS
乗合馬車で語られた
お話たち
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夢ってかなう
雑種犬を連れて散歩に行き
たいそうな豪邸の門前で
「どーんなわるいことすりゃ
こんなお屋敷が建つんだろうな」
と、犬に話しかけるのが夢だった。
Dreams come true !
夢ってかなうもんだ。 |
父と娘のショーショート
1
小学生の娘に諭すように言ったものだ。
「人生はマラソンである」
答えていわく
「私、遅いからビリだわ」
2
算数のドリルを捨てている娘に
「ずいぶん、きれいだな」
「だいじに、使ってたんだよ」
どれ、とドリルを手にとってみる。
「使って、いないんじゃね」
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大阪VS東京
「ビールの大瓶(だいびん)、中瓶(ちゅうびん)、小瓶(しょうびん)なんて、
ヘンだよ。大便、小便みたいじゃないか」と私。
大阪の女史が反論する。
「東京の大瓶(おおびん)、中瓶(ちゅうびん)、小瓶(こびん)のほうが
おかしい。音読みと訓読みがまぜこぜやん」
なるほど、理屈はそうや。
東京の人は居酒屋ですぐ漬け物を注文する。 と、大阪の女史が指摘する。
それがどうしたの?
大阪で漬け物を頼むというのは、これで締めという暗黙の意思表示なのだ
そうだ。
だから、大阪で初めに漬け物をオーダーしようものなら、
へ? という顔をされてしまう。
大阪に赴任したときに現地採用した件の女史には、
東京と大阪の言葉の違い、
その背景にある文化の違いについて、いろいろ教えてもらって面白かった。

その女史が東京に来たとき、駅ホームの掲示板を見て
「『こんど』と『つぎ』ってどっちが先やねん」
改めて聞かれるとたしかにまぎらわしい。
大阪では『次発 次々発』で、そのほうが確かに分かりやすい。
東京の整列乗車に対し、大阪はランダム乗車。
しかし東京では整列乗車の割に結局最後には、押すな、中に入れ、
どけバカヤロ、やめて!
などと怒号が飛び交うが、大阪は雑然としながらも
全体が有機体のように流れ、おさまっていく感じだ。
電車に乗ってまずびっくりするのは、『指づめに注意!』の表示。
東京風に言えば
『ドアにはさまれないよう十分にご注意ください』
なのであるが
指づめといわれるとどうしても
そのスジの方々の、伝統的しきたりをイメージしてしまう。
エスカレータは東京は左側に立つ。
大阪は右、というより、ウォーキングロードにしても
みーんな動いている上をさらに歩いていく。
立っていると「なにやっとんのん?」という顔で見られる。
大阪人は倍速で生きている。
小学低学年の男児が、勇んで店に来たものの、お目当てのお菓子が、ない。
発した言葉が
「せつないなー」
最初の「せ」にアクセントがくる語調で言う。
東京の子供に、こういう「せつない」文化はない。
かみさんが精肉店に行ったときのこと。
「挽き肉300gください」
「ヒキニクって、なんや、かわらん、あと、あとっ !」
後回しにされた。
挽き肉は、ミンチと言わないといけないらしい。
うどんのつゆはたしかにうまいし、
たこ焼き、その場で揚げてくれる海老天丼、
食べ物屋でまずかった記憶がない。
どの店でも
安くてもまずいものは出さないという矜持が感じられた。
件の女史、(大阪の人間は)
「いつもなんか笑かしたろ」と思っているそうだ。
東京でもはばかることなく大阪弁を語る。
家康にだまし討ちにあって今日に至っているが、
誇りは受け継がれている。
「大阪で先の戦争いうたら、大坂夏の陣のことやで~」
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癌を告知されたときの話
診察室に入ると、医者がこちら
を向いて待ち構えるかのように
座っている。
たいてい医者は机に向かって
座り、患者を横に見ながら話す
感じだろう。
ただならぬ雰囲気を感じたが、
ともかく私は「こんにちは」と
初対面のあいさつを口にした。
返事がない。
丸椅子に私が腰を下ろすと、
手にしたファイバースコープの
写真を一瞥して、
意を決したように、30代の
その医師は私に告げた。
「○○さん、これは癌ですよ。
しかも初期といえる範疇では
ない。進行期の癌です」
説明が続いた。
直腸癌で肛門から8センチの
ところに十円玉くらいの病巣
がある。
すぐに入院してもらい、
全身を精査して手術する……。
面倒なことになったと思ったが
不思議に混乱はなかった。
家族にどう話そうか。会社
には。
仕事の整理を付けて引継ぎを
お願いしなければならない
な……。
医師の話は入院のスケジュール
などの話になったが、
ついに医師から「切れば治る」
という言葉は出なかった。
廊下に出ると、さっきまで漫然
と眺めていた大腸癌・直腸癌の
ポスターを、今度は意識的に
見る。
進行癌で5年以上生存率は
25%と書いてあった。
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こんなの作りました



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フツーの夫婦
ごくフツーの男と女が出会い、
ごくフツーの結婚をした。
一人娘も大きくなり、ごくフツーの夫婦生活を
おくっていた。
ただひとつ違っていたのは・・・・・・。
ほんとにもう、イヤになっちゃうわ。
毎日毎日、私だってフルタイムで働いて疲れて
いるのに
炊事、洗い物、ゴミ出しの準備に追われて。
週末はたまったお洗濯とお掃除。一週間分の
買い出し。
便器の掃除だって、見かねて私がやるんだから。
毎日、毎日、いっつも次の献立を考えているわよ。
娘はトマトときうり以外の野菜は食べないし、
あの人ったら、朝は絶対ごはん。
夜は米の飯はいらない、豚肉はいらないって
いうし。
みんな同じものを食べてくれないから
少しづつアレンジして3人分、別メニューで
つくるっていう。
そうそう、ワンコの分も作るから4人前ね。
食器洗い乾燥機なんて金目のものは買えないし
夕食の後の片づけだって
洗って、ただの乾燥機に入れて、入りきらないから
3回は繰り返すわ。
それから明日のお米をといで、時間をセットして。
帰ってくるといつも不機嫌で。
「みんなのために、いやな思いに耐えてがんばっ
てんだからさ」
休日になるともう、ダシガラみたいになって。
頭が痛い、腹の具合が、って。
今日は久しぶりにお情けをいただけるかしら
なんて期待しても、
床に就くなり「あ~疲れたあ」って背中を向けて
しまうのよ。
明日は飲み会だからメシはいらない。
帰りは車で迎えに来て。
タクシー代、馬鹿らしいでしょ。
時間はメール送っからさ。
仕事の付き合いなんだからしょうがないじゃない。
ま、酒はきらいじゃないけど、毎日たいへんな思い
で働いてるんだからさ。
そんなに目くじら立てないで。
・・・・・・・・・調子いいんだから。
それで、東京のお土産でごまかそうとするのも
いつもの手。
そりゃあ、生活費を稼いでもらっているんです
から。
家のことは私がなんとかしなくちゃね。
自治会の面倒なことはすべて引き受けるし、
ぜいたくは敵。節約、節約、節約よ。
・・・・・・ごくフツーの男と女が出会い、
ごくフツーの結婚をした。
そしてごくフツーの、ステレオタイプの夫婦生活を
おくっていた。
ただひとつ違っていたのは、
主婦が主夫だったということです。
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「風評被害」ってね
「風評被害」っていうのは、
本当はそうじゃないのに、
よくない風に思われている
ということだな。
でもそこだけを強調しちゃうと
原発が事故を起こしても
たいしたことないんだよ
という風に流されていく感じが
いやなんだね。
前提として、「ノーモア原発」
の決意、意志が感じられない
のが問題だと思う。
そこを確かめられるなら
積極的に、
寄り添っていきたいし、
いかなくちゃいけない。
国策としての原発推進を
容認してしまった国民として。
50年後、100年後、
人々が口々に言ってますよ、
「この時代の人間たちは、
自分たちにこんなやっかいな
ものを押し付けやがって」。
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デーモン閣下の先見の明
ついに、鶴竜が大関になる。
その技能相撲とともに、
モンゴル出身とは思えぬ流暢な
日本語に感心して応援していた。
かつて幕内の中盤で
勝ち越したり負け越したりの
地味な力士だった頃、
あの相撲に詳しいことで
つとに有名な
デーモン小暮が鶴竜を評して
「少しずつ着実に力をつけていって
いずれは大関をうかがうようになる
のではないかと
吾輩は見ておるのだが」
と言っていた。
そのときの解説の北の富士さんが
例の口調で
「ふん、そうかねー」
と否定的に返していたのを
よく覚えている。
小暮閣下の先見の明におそれいった。
(2012年3月)
いまでは横綱である。
派手なパフォーマンスはないが
競馬でいう「自在型」の
多彩で巧みな相撲を見せてくれる。
コメントにも知性を感じるし、
ファンです。
(2019年8月)
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オレの、ヒーロー
『現代のヒーロー』とかのタイトルで
たぶんNHKがやってた番組。
アントニオ猪木が出るというので見ていた。
猪木のほか忌野清志郎が出ていて
それまでは面白い歌を歌う人だなくらいの
印象だったのだが
その番組を機にこの人はすごいと
意識するようになった。
番組のエンディングは
忌野清志郎のステージなのだが
猪木も流れでステージに残っている。
場違いのステージに立たされ
所在無い猪木に清志郎がそっと耳打ちすると
猪木が清志郎をエレキギターごと肩車した。
その思いやりと、エンタテインメントの才能に
目をみはった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
聞けば、
「牛乳が飲みてえ-」などの歌詞で
反原発ソングを歌い
発売禁止となった楽曲も多いという。
それもあの福島の原発事故以前の
話である。
あの人類史に残る原発事故のとき
彼はすでに召されてしまっていた。
2009年5月
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このブス!っていう言葉に、ね
アラフォーのキュートな女性が息を弾ませて乗り込んできた。
隣り町まで乗せてね、って。
男なんてすぐに見つかるからさあ、独り身の方が気が楽だし、って、
聞かれてもないのに話し出す。
ワタシ、一度だけ「ブス!」って言われたことあるのよ。
そりゃあね、どんな女にも言っちゃあいけないわよ。
だけど、このワタシに、よ。
道歩いててね、ぼうっと歩いてたのかなあ。
チャリに乗ったおっさんに、後ろから
「おら!ジャマなんだよ、どけよ、このブス!」って。
このブス!っていう言葉にカチンときてね。
追い抜いていくおっさんをにらんでやったのよ。
そしたら、急に低姿勢になって
「あ・・・どうも、すいません」だって。
なんでだと思う?
・・・私がブスじゃなかったから!
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お元気で、ミスター・コロッケ
コロちゃんコロッケがいちばん、うまい。
神戸屋の、お値段もそれなりのものは当然うまいけど
清貧な一家の惣菜として、コロちゃんコロッケを食べたら
スーパーのコロッケはいただけない。
しかも1個、税込63円と、
スーパーより安いときたもんだ。
それこそ余計なものが入っていない
飽きのこない、弁当に入れてもうまい、
私のミスター・コロッケだった。
フランチャイジーの「コロちゃんのコロッケ屋」が
2007年に破産申請のニュースが流れ
あのコロッケが食べられなくなると心配したが
私が買いに行くショッピングモールの屋台は
その後も営業していて、よかったあと思っていた。
そのショッピングモールが
定番の買い物コースでなくなってからは
2、3ヶ月に一回はそのために赴いて、24個買っていた。
24個というのは、プラパックにちょうど
8個ずつ入れてくれるのでそれを3パック。
家族でまだあったかいうちに数個は食べてしまい
残りは冷凍する。
冷凍コロッケもチンしてオーブンで焼くと、全然、うまい。
今日も3ヵ月ぶりに買いに行った。
いつもの白髭のおやじが、いる。
いつもと違うのはカウンターに貼り紙。
「売り切り次第 閉店」
ストックが無くなったら今日は終わり、くらいに考えた私は
「24個、揚げておいてください」
「24個、はい。・・・1512円」
きっちり1512円を受け皿に載せると・・・
「今日来てもらってホントによかった。
売り切ったところで店を閉めちゃうんですよ」
「えっ! そういう意味の閉店?」
「そうなんです」
「・・・どうも、お疲れさまでした」
「奥様にもよろしく」
「はい。じゃあ、20分くらいで来ます」
「揚げておきます」
スーパーで目玉商品を買ってから
最後のコロッケを迎えに行く。
「長いこと、ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
白髭のおやじの目が潤んだ。
「お元気で」
「お元気で」
もう少し、気のきいたことが言えたら
とも思ったが
あれでよかったのかなあ、とも思う。
2014年6月
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